起業するときに「プロダクトアウト」で始めるか「マーケットイン」で始めるか。
議論が分かれるところかと思います。
いろいろとやって、僕はどっちが良かったのかなぁと考えてみました。
everevoはどっちのサービス?
2010年暮れの話。
Facebookが意識高い系の方々に広まっていく中「facebookのイベント機能、めっちゃ使いにくいんだけどなんとかならないもんかね?」と僕に相談がありました。
その頃、会社でfacebookアプリとかを作っていたので「facebookアプリ作ればなんとかなるんじゃないかな?」と回答しました。
このサービス、受託開発で受けようかと当初は思っていたのですが、いろいろと考えていくうちに「これ、自社サービスとして展開したら面白いんじゃないかな?」と思ったのがeverevoプロジェクトの始まりでした。
そこからは
「こんな機能があったら良くない?」
「このサービスのこの機能は使えるんじゃない?」
と様々な機能をほぼ想像でくっつけて取りまとめ、すぐに開発に入りました。
※当初のリリース予定日は2011年の3月11日でした。
お客さんの声、最初の一人以外全く聞いていません。
プロダクト、想像で作りました。
ふりかえるとものすごく乱暴な開発ですね。
当時はソーシャル関連サービスの開発や調査をいろいろとやっていたので、設計の勘がうまく働いていたのかもしれません。
作っていくうちに、海外にもどうやら類似のコンセプトを持つサービスがあり、成長している、みたいな情報が見つかったりと、「まぁ、なんとかなるんじゃないかな?」というノリで開発を続けてました。
この頃の僕はまだまだエンジニアマインドのほうが強い人間でして、自分の作りたいものを作りたい!という欲求でプロジェクトを進めていました。
everevoはもう、典型的な「プロダクトアウト型」のサービスですね。
それでは、イベントクリエイトはどうだったの?
2014年からスタートした法人向けイベント管理SaaS「イベントクリエイト」。
これはeverevoを使っていたお客さんなどから「法人できちんと使えるイベント管理サービスがほしい」というご意見をいただき、サービスを作りました。
このとき、ヒアリングしたのは実は数社・・。
しかもヒアリング先には初回のヒアリング後の進捗状況の共有なども特にせず、これも「たぶんいけるだろう」という思い込みで作ってしまいました。
※しかも最初に「こんなサービスがほしい」と言ってくれた企業はなんやかんやで導入してくれないという。。
一応、今回は開発前にニーズ調査とかは結構やってみたんですよね。
だけど今振り返るとその調査、全然具体的じゃない。
モヤッとした調査だからポジティブにもネガティブにも取れる調査結果が上がってきます。
そしてやっぱり「作りたい!」「こんな調査してるより急いで形にしないと」という意思が先行しちゃったんですよね。
調査結果のポジティブな部分を理由に、イベントクリエイトの開発プロジェクトを進めてしまうわけです。
※今振り返ると、その時プロジェクトに関わってくれてたアドバイザーからは
「調査しても強いニーズが感じられない。もうちょっと考えたほうが良い」
という言葉を貰ってるんですよね。今の僕も同じことをきっと言います。
「顧客像とニーズが全然明確じゃないよ!」
って。今だったら絶対こういう始め方はやらないですね。。
それで、サービスリリース後どうなったの?
everevoはサービスの仕組み自体にソーシャルで拡散する仕組みが組み込まれてるので、口コミで少しずつ利用者は広がっていきました。
でも、大きく伸ばすためには「狙って大きく」していかなければなりません。
このとき、ようやく「市場」という考えが生まれました。
・インディーズライブ市場を開拓できるかも!
・オタク市場(販売会とか撮影会とか)を開拓できるかも!
・演劇市場を開拓できるかも!
・ほげほげを開拓できるかも!
everevoのビジネスモデルは「有償のチケット販売の手数料」になります。となると、必然的に無料イベントの開拓は対象から外れるわけです。
様々な市場にチャレンジしてみました。
しかし、市場ごとに「本質的に解決しなければならない問題」が全く異なるのですよね。
となると「○○の市場に行くぞ!」ってなると、○○の市場に合わせたシステム開発をしなければなりません。
その市場の本質的な課題かと思っていたものが、実はそこまでではない問題だった、ということにあとで気づくこともしばしば。
いわゆる「あったら良いね!」というやつです。
市場に進出しようとするたびに、これに振り回されまくります。
社長は必死。でもそれに振り回される開発陣はたまったもんじゃないですよね。
こういうやり方は、やはり良くない結果をもたらしていきます(それはまた別の話で)
結局、当たったのは当時急成長中だった「街コン」市場でした。
これ、自分からは営業かけていません。
業界最大手の企業がeverevoを使い始めると、他の事業者の多くも使い始めました。
僕は何もやっていません。ラッキーとしか言いようがないですね。
これがなかったら早々にサービスは潰れていただろうなと思います。
イベントクリエイトはどうなった?
イベントクリエイトも全く一緒です。
リリースしても全然売れない。友人・知人経由で少し売れるぐらい。
ベンチャーのピッチなどで登壇しますが、金融機関が寄ってくるだけで別に買ってくれないわけです。(あるあるですね)
売り方がわからんな、と。実は1年近く営業活動を放棄した時期がありました。
こちらも、放置してたらぽつ・ぽつと売れ始めたんですよね。
ネットで探してイベントクリエイトを見つけて利用してくれる方が出始めました。
ただ、利用者がとても面白かったですね。
超有名な外資系コスメ企業、労働組合、超大手不動産運用会社、社会福祉協議会、自治体、個人事業・・
利用者がもうバラッバラだったんですよね。
ここからはもう、顧客にヒアリングして営業戦略作って、実行して、をやるわけです。
しかし売れない!
業種業態によって、営業チャネルが全然違うわけです。
例えば社会福祉協議会にイベントクリエイトを知ってもらうにはどうしたら良いと思います?
メール営業?
ウェブ広告?
DM?
テレアポ?
FAXDM?
飛び込み営業?
紹介営業?
代理店?
・・これ、全部試すんですよね。
さらに、予算策定のタイミングや決裁権を持っている人の洗い出し。
やらなければならないことがたくさんあるのに、売れるイメージが全然わかない。
これを業種業態ごとにやったんですよね。これはきつい。
結局、
業種業態を特に絞らず、ウェブマーケティングに注力し、引き合いがあったお客さんに事例を訴求する
というやり方が一番効率がよく、さらに計算が立つ、ということに気がつくまで2年以上試行錯誤してました。
※こんなのは今SaaSビジネスやってる人なら当たり前のやり方ですよ。
汎用ツールをマーケットに合わせて展開していくのは本当に大変だなぁと思いました。
※ほとんどの営業・マーケティングを経験できたのでめちゃめちゃ勉強になりましたが。
で、結局どっちがいいの?
正直言うと”僕は“「マーケットイン」で事業開発をやっていくべきだったなと思います。
マーケットインの最大のメリットはこんな感じです
早いうちから売上を確保できる
デメリットは
事業のスケールがちっちゃくなっちゃうかもしれない
ということです。
※逆に言えば「プロダクトアウト型はでっかいビジネスになるかもしれない」というメリット?があります。
ここで「起業あるある」なのですが、起業してすんごく経営者の心を蝕むのってなんでしょうか。
もう、ずばりこれは「資金繰り」なんですよね。
僕も独立前に「経営者は資金繰りに最も心を割かれる」ということはあちこちから散々聞いていました。だからこそ「僕は多分そんなことではへこたれないだろう」って思っていたんですね。
予備知識があるから大丈夫だと。
・・・で案の定、資金繰りが、ずっと、ずっと、頭の片隅に、心の片隅に、肩に、背中に、胃袋に、ずっとずっとずっと乗っかってくるようになりました。
霊にとりつかれたようですよ。まさに。
これは、本当にやってみないとわからないことでしたね。
普通に道を歩いているときも売上と入金と出金の今後数ヶ月の状況の計算をずっとしてるんですよ。
(しかも、プロダクトアウト型の僕の事業。考える売上計画の殆どが「皮算用」ですよ。)
まぁ、よく心が持ったものだと思います。
起業初心者の僕はまずはマーケットイン型でベースとなる事業を作ってから、スケールする事業にチャレンジすればよかったなぁと、振り返って思います。
マーケット脳のすすめ
とはいえ、2011年当初にマーケットイン型の事業が作れたかというとそれも怪しいんですけどね。
実は僕は、2015年夏にとあるメンターに叱責されてから3年かけてようやっと「マーケット脳」を身に着けました。(※この話もまたいつか)
マーケット脳になると
「この人の困りごとは、これを使えば解決できそうだな。解決できたらこのぐらいの報酬が発生しそうだな」
ということがわかるようになってきます。
プロダクト脳のときは
「自分(のサービス)はこんな強みを持ってる(と思う!)この強みが生かされるのは、きっとこんな人!(だと思う)」
という考え方でした。
この2つ、似てるようで大きな違いがあります。
それは「思考開始時点で具体的な見込み客がいるかいないか」なのです。
マーケット脳の場合、すでにこの時点で
・具体的な顧客のペルソナ
・顧客が抱える強い課題
が明確になっています。
そうなると、こういう感じで事業をスタートさせることができるんですよね。
- 世の中の様々な既存リソースを使った解決方法を模索してみます。
- その解決方法を、見込み客に提案して「これ、○○円で買わない?」と話します。
- OKが出たなら、同じようなお客さんを探して同じ提案をします。
- 数人からOKが出ました。サービス提供前ですが、売上は確保できました。
- ではサービスを作ります。
これで良いんですよね。まずは。
お客さんは課題が解決できればやり方はどうでも良いわけです。
システム化が必要に思えるサービスでも殆どはシステム化、いりません。
ペラ一枚のホームページとメールフォームだけでも多く本質的な問題解決は可能です。
※システムの部分を人力でやっちゃえばいいのです。AI使うようなもんです。
マーケットイン型って事業開始時の投資コスト(時間・資金ともに)も抑えられるんですよね。
プロダクトアウト型で勝負するには?
プロダクトアウト型に向いているのはこんな事業かなーと
めちゃめちゃでかいビジョンの事業
「5年後に絶対こうなるぜ!だからいま俺はそのためにこうするぜ!」
「世の中をこんな感じに変えていきたい!大義はバッチリあるぜ!」
というもの、それのスケールがでかいもの。
投資家とかベンチャーキャピタルとかはこういう事業に投資したいですよね。
プロダクトアウト型で勝負するときに最も重要なスキルが
資金調達能力
ですね。なぜなら売上がなかなか上がりにくいから。先行投資がかさむから。
ちっちゃいビジョンにはお金は集まりにくいし、おっきいビジョンの事業はより先行投資がかさむ。
だからおっきいビジョンでおっきいお金を集める、集めきる覚悟が必要なんですよね。
これ、起業初心者向けやり方なのかな?って思うんですよ。
(でもこれをやりきれれば、めちゃめちゃ経験値上がりますよね。)
とはいえ、実際は・・
でも面白いもんですよ。
多くの人は僕のように「プロダクトアウト型」で起業すると思います。
なぜなら「マーケットイン」型のスキルが無いから。
起業なんてわがままなもんです。自分の思いを世の中に証明したいから始めるものじゃないですか。で、投資家を回るじゃないですか。
多くのプロダクトアウト型事業、自分じゃ大きいと思っていても投資家目線だと「ちっちゃいビジョン」って思われるものです。
投資家はそんな事業に投資したくない。となると起業家は投資家に合わせてビジョンを無理やりおっきくしていきますよね。(起業家も投資家もまぁ・・わかっていることだとは思いますが)
なんかそんなことがあちこちで起こってるような気がします。
マーケットイン型でもスケールする事業は作れるんですけどね(たぶん※)。
マーケットイン型で起業して、数年で10億以上の売上を作る(もちろん100%自己資本)、という人が僕の尊敬する経営者の中に何人もいます。
※数年で10億〜100億というのはスケールじゃない!というご意見もあるかもしれませんが。
事業を多角化していっても良いですし、市場選択があっていればマーケットイン型事業を大きくスケールすることも可能なのですよね(たぶん※)
※数年以内にこの「(たぶん)」を取りたいなぁ。
話はそれましたが、自分の思いの発露から多くの人は起業するもんかなと。
そんな起業家がマーケット脳を獲得するのはもちろん時間がかかりますよね。
だから、起業はチームで役割分担する必要があるのかなぁと。
思いを持った起業家は、マーケット脳を鍛えた方とタッグを組む事で「マーケットイン型」の事業開発ができるようになりますよね。
まずはそこで一度、経営経験をすることも良いのかもしれません。